東京地方裁判所 平成10年(モ)2988号 決定 1998年4月24日
原告
蛯子俊郎
同
蛯子正綱
右両名訴訟代理人弁護士
相川俊明
被告
電源開発株式会社
右代表者代表取締役
杉山弘
右訴訟代理人弁護士
仁科康
同
藤井正夫
被告
函館市
右代表者市長
木戸浦隆一
右訴訟代理人弁護士
嶋田敬昌
同
嶋田敬
被告
銭亀澤漁業協同組合
右代表者代表理事
辻口初男
右訴訟代理人弁護士
菅原憲夫
主文
本件を函館地方裁判所に移送する。
事実及び理由
一 被告らの移送申立ての趣旨及び理由
被告函館市及び同銭亀澤漁業協同組合(以下「被告漁業協同組合」という。)は、主文同旨の決定を求め、その理由として、被告らはいずれも函館市に主たる事務所等を有しているため、当庁に出頭するのに要する時間的、経済的負担が大きいこと、本件で争点となる訴状添付の別紙物件目録記載一の土地のうち同目録記載二の土地(以下「本件土地」という。)がすべて函館市内に所在するほか、本件土地に関する書証、人証が函館市及びその近郊の函館地方裁判所管内に存するため、旅費、日当等証拠調べに要する費用が著しく多額になることから、本件を当庁で審理すると、訴訟が著しく遅滞し又は当事者の衡平に反するので、函館地方裁判所に移送すべきである旨主張した。
二 原告の意見
原告は、右移送の申立てに対し、被告函館市及び同漁業協同組合は、いずれも公的機関であるから、応訴の負担は甘受すべきであるし、同電源開発株式会社(以下「被告電源開発」という。)は東京都に本社を有するのに対して、東京都在住の原告蛯子俊郎は、身体障害者であり、函館地方裁判所への出頭は困難であること、本件土地に関しては写真等の代替的な証拠方法により証拠調べが可能であることから、本件を函館地方裁判所に移送すべきではない旨主張した。
三 当裁判所の判断
1 本件事案の概要
(一) 原告らの請求
昭和四一年一一月二二日、旧銭亀澤村は、函館市との合併に伴い、借地権者であった原告蛯子正綱及び原告蛯子俊郎の父蛯子綱太郎に売却することを条件に、被告漁業協同組合に対し、本件土地を売却し、その後、原告蛯子正綱及び蛯子綱太郎は、同漁業協同組合から、本件土地を買い受けた。
その際、原告蛯子正綱及び蛯子綱太郎は、登記手続の煩雑さを避けるため、旧銭亀澤村から一旦形式的に被告漁業協同組合に対し所有権移転登記手続をしたところ、これを奇貨として、被告函館市及び同漁業協同組合は、本件土地の一部を不法に占有し又は砂利を採取する等し、さらに、同漁業協同組合は、被告電源開発に対し、本件土地の一部をケーブル埋設等の用地として賃貸している。
そこで、蛯子綱太郎を相続した原告蛯子俊郎及び同蛯子正綱が、被告らに対し、本件土地の所有権移転登記手続並びに構造物等撤去土地明渡及び損害金等の支払を請求したのが本件である。
(二) 被告らの主張
被告電源開発は、被告漁業協同組合との本件土地賃貸借契約締結に際し、登記簿上所有者として登記されている同漁業協同組合が真の所有者であると信じていた等主張している。
被告函館市は、本件土地について同市は所有権の登記を有していないので、同市に対する所有権移転登記手続請求は訴えの利益を欠き、本件訴えは却下されるべきであるとの本案前の主張のほか、そもそも、原告らが主張する本件土地は、現況その大部分が被告漁業協同組合所有名義の訴状添付の別紙物件目録一記載の土地に含まれないうえ、同市は、被告漁業協同組合に対し、本件土地を売却したのであるから、原告らに対し、本件土地を売却し又は所有権移転登記手続をすべき義務を負うものではないこと、同市が本件土地を占有したことはないこと等を主張している。
2 検討
そこで、検討するに、本件の当事者のうち原告蛯子俊郎及び被告電源開発が東京都に住居又は本店を有するものの、それ以外の当事者はすべて函館市に住居等を有することは明らかである。
また、被告函館市の主張によれば、そもそも請求の対象である本件土地が、原告の主張するとおり、被告漁業協同組合所有名義である訴状添付の別紙物件目録一記載の土地に含まれるか否かという最も基本的な事実関係に争いがあるうえ、原告らは、被告函館市及び被告漁業協同組合が本件土地から砂利採取をしている等と主張するが、この点についても争いがあることから、現地における測量等を含む検証が不可欠であると予測される。これらの点について、原告が述べるような写真等の代替的証拠調べによっては、争点を明らかにすることは極めて困難であると考えられる。
さらに、本件土地の売買の経緯、売買の当事者、売買時の条件等については、書証、人証により立証していくことになろうが、昭和四一年の売買契約当時の状況を知りうる者は、本件土地の所在する函館市又はその近郊に居住しているものと推測できる。
以上によれば、当庁で本件を審理した場合、検証等の実施に当たり多大な不便が生じるのみならず、証人等の尋問の実施に当たり、当事者の負担すべき旅費、日当等の負担も大きく、証人の出頭の確保、期日指定の関係等から訴訟が著しく遅滞するおそれが生じることは必至であると考えられるが、これに対して、函館地方裁判所で審理した場合には、このような問題の発生を回避することが可能である。
なお、原告蛯子俊郎は、身体障害のため、函館地方裁判所に出頭することが困難であるという事情はあるが、同人に訴訟代理人が選任されていることからすると、本件を函館地方裁判所に移送することが、当事者間の衡平に反するとはいえない。
右の諸事情に加え、被告電源開発が函館地方裁判所への移送について同意していることを考慮すれば、民事訴訟法一七条に基づき本件訴訟を函館地方裁判所に移送するのが相当であるから、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官加藤新太郎 裁判官片山憲一 裁判官日暮直子)